思考の質が落ちたわけではない、なのに、何かが違う
ある弁護士の方が、こんな話をしてくださいました。
「書面を書いていて、以前と同じ集中力が続かないんです。能力が落ちたわけではない。判断の精度も悪くなっていない。でも、夕方になると、思考が以前のようには走らない。なんとなく、頭の中に薄い膜がかかっているような感覚があるんです。」
40代後半。キャリアの脂が乗り、案件の質も高くなり、後輩を育てる立場にもなっている。「今が一番、仕事ができるはず」という時期にいるのに、ご自身の中では何かが変わり始めている。
「気のせいかもしれない。あるいは、加齢だから仕方ないのかもしれない。ただ、運動不足だとも思えないし、睡眠時間も変えていない。健康診断の数字も全部問題ない。それなのに、何かが違う。」
こうした感覚を抱えているのは、決してその弁護士の方だけではありません。コンサルタント、税理士、会計士、経営幹部、研究者、ITエンジニア、経営企画——頭脳と専門性で価値を出している方々が、40代半ばから50代にかけて、似た感覚を語られます。
「以前ほど、頭が冴えない」
健康診断では捉えられない、「思考の質」の話
不思議なことに、こうした感覚は、健康診断ではほとんど検出されません。
血液検査の数値は範囲内。血圧も正常。BMIも問題ない。脳ドックを受けても、画像上は異常なし。
それなのに、ご本人の感覚としては「何かが以前と違う」。
この感覚の正体について、私たちは長く「加齢」という一言で片付けてきました。確かに、加齢の影響はあります。ただ、加齢だけで説明しきれない要素も、同じくらいあるのです。
その「説明しきれない要素」のひとつが、身体性と知的生産性の関係です。
「頭」と「身体」は、本当に別物でしょうか
私たちはなぜか、「頭の冴え」と「身体の状態」を別物として扱う癖を持っています。
頭の冴えが落ちたら、コーヒーを濃くする。サプリメントを試す。睡眠時間を見直す。瞑想アプリをダウンロードする。
身体の違和感が出たら、整体に行く。マッサージを予約する。週末にジムに行く。
頭の対策と、身体の対策が、別々のルートで行われています。
ただ、人間の身体の中で、「頭」と「身体」は神経でつながった一つの連続体です。座っている時間の長さ、姿勢の癖、肩や首の張り、呼吸の浅さ、骨盤の傾き——これらは脳への血流、神経の働き、自律神経のバランス、すべてに影響します。
つまり、「夕方の思考の薄い膜」は、頭の問題かもしれないし、身体の問題かもしれない。あるいは、その両方が絡み合った状態かもしれないのです。
どの専門家に相談すれば、その「絡み合い」を読み解いてもらえるのか
ここで、私たちは選択肢の少なさに直面します。
脳神経内科に行けば、脳の検査をしてもらえます。けれど、画像と血液検査で異常がなければ「経過観察」になります。整形外科に行けば、骨や関節を見てもらえます。けれど、「頭の冴えが落ちた」という相談には対応しません。心療内科に行けば、メンタル面を診てもらえます。けれど、肩や姿勢の話にはなりません。トレーナーに相談すれば、運動を提案されます。けれど、「思考の質との関係」までは医学的に判断できません。
それぞれの専門家は、それぞれの専門領域では一流です。ただ、「頭の冴えと身体の状態の絡み合い」を、一人の医師が医学的に読み解いてくれる場所が、日本にはほとんどありません。
これは、専門家不足の問題ではなく、日本の医療の構造的な問題です。
アメリカには、その絡み合いを診る専門医学がある
アメリカには、Physical Medicine and Rehabilitation(PM&R/ピーエムアンドアール) という独立した専門医学があります。日本語に直訳すれば「物理医学・リハビリテーション医学」です。
ここでいう「リハビリテーション」は、術後の回復訓練だけを指す言葉ではありません。身体機能を医学的に評価し、整え、最大化するための医学全体を意味します。
PM&R専門医は、身体を「分断された部品の集まり」ではなく、「神経系・筋骨格系・運動機能・日常動作のすべてが絡み合った一つのシステム」として診ます。脳と身体の関係も、その視点の中に含まれます。
エグゼクティブ、専門職、研究者、アスリート——立場の違う方々が、PM&R専門医のもとで「自分の身体システム全体」を診てもらいます。「頭の冴えを保つために、身体をどう設計するか」という問いも、PM&R的視点の中で語ることができるのです。
日本には、この視点を提供する診療科がありません。
私は、その不在を埋めるために越境しました
私は整形外科専門医として10年以上、臨床に立ってきました。骨折を直し、関節の手術を担当し、外来で多くの患者さんを診てきました。
その中で、何度も同じ場面に遭遇しました。
「先生、肩が痛いんですけど、それより、ここ最近、仕事の集中が続かなくて」
「膝の話で来たんですが、夕方の疲れ方が、以前と違うんです」
患者さんは、肩や膝の話の延長線上で、思考の質や集中力の変化について、自然に語られます。患者さん自身は、それらを「別の問題」と思っていない。身体の違和感と頭の違和感は、ご本人の中では一つの連続した感覚なのです。
ただ、整形外科の枠組みでは、肩や膝の話までしか担当できません。頭の冴えの話は、別の科に紹介する形になります。
その「ご本人の中ではつながっているのに、医療では分断されている」という構造を、私はずっと埋めたいと思ってきました。
その答えを探して、Stanford大学病院のスポーツ医学・PM&R領域に研究医として渡りました。日本人として、唯一の研究医でした。
そこで学んだのは、「身体を一つのつながったシステムとして診る、医師としての視点」でした。骨も筋肉も神経も、運動も認知も自律神経も、すべてが連動して動いている。その連動を医師の目で読み解き、必要なところに必要な介入をする——それがPM&Rという医学の本質でした。
専門家の45歳、「身体的曲がり角」をどう設計するか
40代後半は、多くの専門家にとって身体的な曲がり角です。
20代・30代は、身体の力で押し切れました。多少無理をしても、翌朝には戻っていた。集中力も、若さの力で維持できていた。
40代半ばを過ぎると、その「若さで押し切る」が効かなくなってきます。回復に時間がかかる。集中の維持に努力が必要になる。身体の違和感が、思考にまで波及するようになる。
ここで多くの方は、従来通りの対症療法的アプローチを続けようとします。マッサージに行く、サプリを試す、ジムに行く——いずれも悪いことではありません。ただ、「ご自分の身体システム全体を、医学的に一度見渡してもらう」という選択肢を、ほとんどの方は持っていないのです。
これは、専門家としてのセカンドピークを作れるかどうかを左右する分かれ目です。
専門家としての知見、経験、判断力は、40代後半から50代にかけて、最も豊かになります。けれど、それを支える身体システムが「曲がり角」で適切に再設計されていないと、最も価値を発揮できる時期に、思考の質が落ちるという逆説が起きます。
「頭の冴えを保つための、身体の設計」——これは、専門家にとって、極めて実利的なテーマです。
上塗りではなく、根本からアプローチする
やえこふクリニックでは、対症療法的な「楽になる施術」は行いません。
その代わりに、整形外科専門医として、Stanford大学病院のPM&R研究医経験を持つ医師として——あなたの身体システム全体を、一つのつながった連続体として診ます。
「夕方の薄い膜」の正体はどこにあるのか。座位時間の蓄積か、姿勢の癖か、呼吸の浅さか、自律神経のバランスか、あるいはそれら全部の組み合わせか。45歳以降の身体システムを、専門家としてのセカンドピークに向けて、どう設計し直すか。
これは診療行為ではありません。PM&R医としての知見をもとに、あなたの身体システムを読み解き、これからの方向性を一緒に考えるための時間です。
「上塗りではなく、根本からアプローチする」——これは、PM&R的視点を日本で提供する、当院の核心メッセージです。
ドクターコンサルのご案内
ドクターコンサル(¥88,000(税込)/90分・オンライン/Google Meet)では、Dr.EKO博士が直接、あなたの身体システムと、知的生産性を支える土台について、一緒に見渡します。
「夕方の薄い膜」「以前ほど冴えない感覚」「健康診断では出ない違和感」をお持ちの専門職の方、ご自身のセカンドピークを意識し始めている方、ぜひ一度お話を聞かせてください。
なお、ドクターコンサルは診療行為ではありません。PM&R医としての知見を活かした、ご自身の身体と知的生産性を支える土台についての対話の時間です。
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